「病院給食施設の設計マニュアル」ダイジェスト
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第2回
災害から学ぶ食糧備蓄のあるべき姿
(2)“非常食”の概念の変遷
1)阪神淡路大震災で得られた主な教訓はどのようなことだったのでしょう?
別府:従来、非常食としては、乾パン等の賞味期限が長いものが備蓄されていました。しかしながら、実際に阪神淡路大震災では、それらがほとんど活用されなかったことが分かりました。そもそも、関西では地震が起こるとはみなさん思っていらっしゃらなかった。そのため、地震が起こった時、着の身着のままで避難してこられた方がほとんどでした。
そこで、備蓄されていた乾パンが非常食として配られたのですが、「水がなくては、パサパサした食品は飲み込めない」、「入れ歯を持ち出せなかったため、硬いものが食べられなかった」等限定的にしか役に立ちませんでした。また、カップ麺やアルファ米が避難所に届いても、お湯が無ければ食べられません。では、お湯はどこから来るのかと聞いたところ、「給水車が来たらもらってください。」そして、「電気が来たら沸かしてお湯にしてください。」という状況でした。これでは、いったい何のために、誰が利用するために備蓄されていたのか不明で、ただ単に備蓄していただけと言っても過言でない状況で、大きな疑問を感じたことを記憶しています。
2)では、本来の非常食とはどのようなものであるべきなのでしょうか?
別府:ひと言でいうと、備蓄の為の食事ではなく、災害時に役に立つ食事であることです。これまでの非常食がなぜ役に立たなかったのかを考えてみると、ライフラインが途絶していて調理ができない、冷蔵庫や冷凍庫が増えているにもかかわらず使えていない、赤ちゃん、子ども、高齢者等、災害弱者と言われる被災者のニーズに対応していない等、様々な要因が挙げられました。これらの意見をもとに2003年に「レスキューフーズ」を開発しましたが、発熱材までつけると値段が高いと不評でした。その上、戦中・戦後の情報統制の影響によって、人々の大規模災害に関する記憶は関東大震災が中心のままで、危機感が薄らいでいたため、日本人の生活スタイルが大幅に変わったにもかかわらず、非常食の見直し・充実化の必要性に関心の目を向けていただくことができず、「レスキューフーズ」の開発は失敗だったのではないかとの挫折感に陥った程でした。
3)その後、新潟県中越地震で別府さんご自身も被災されたのですよね?
別府:はい、「レスキューフーズ」を開発した翌2004年、私自身が新潟県中越地震で被災し、厳しい実状を目の当たりにしたわけです。そこで気づいたことは、阪神淡路大震災での教訓が、整理できていたにも拘わらず、ほとんどが反映されていないという実態でした。結局、災害対策は“非常食を備蓄する”、“外部から救援物資を集めて持ってくることで十分だ”と単純に考えられていたのです。そもそも、自治体や企業、施設でも災害が起こることが想定されていないため、非常食の備蓄はほとんどなく、救援物資を運搬しようにも道路は寸断され、一部の通行可能な道路に車両が集中してしまったため、通常のスピードで配送できませんでした。そのため、消費期限の限られた救援物資が、輸送途中でバタバタと使えなくなってしまうということが起きてしまいました。このことからも分かるように、上記のような単純な対策では、災害時には十分に対応できません。非常食を備蓄すれば良い、救援物資を送ればよいという安易な考え方が最初に破たんしたのが、新潟県中越地震でした。
4)そうした経験を踏まえて「電化厨房フォーラム21」医療福祉部会の分科会プロジェクトによる「災害時の食事提供モデル」が作成・レポートされましたが、メンバーの一員でいらっしゃった別府さんから概要を紹介いただけますか?
別府:先述の阪神淡路大震災や新潟県中越地震では、病院や介護・福祉施設で備蓄されていた食品が原因となって、栄養不良や肺炎などの健康面での二次災害が頻発していたことが明らかになりました。このような実態を受けて「電化厨房フォーラム21」の医療福祉部会が立ち上げた分科会プロジェクト「病院、介護・福祉施設における災害時の食事提供モデルの作成」に参加させていただき、災害発生直後から平常時に近い安全性・機能性・栄養支援効果を確保した食事提供を可能にするためのハードとソフトが一体となったシステムモデルの開発を目指しました。

■開発提案内容

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別府:そこでの最大のポイントは、真空調理やクックチルで前倒し調理し、冷蔵保存されたメニューを、備蓄しておいた非常用食品と効果的に組み合わせて、災害時でも充実した食事提供を目指すことでした。つまり、新調理システムの導入がベースとなりますが、平素から3日サイクルの前倒し調理を行うことにより、ランニングストック型のメニュープランを構築し、備蓄する非常用食品や冷蔵保存食品を組み合わせながら、臨機応変な運用を行うというものです。併せてこのような食事提供の実践に最適な復旧の早い電気エネルギーを使用する電化厨房の設計モデルや非常用発電機対応とするべき厨房機器のリストアップなども行いました。

■開発提案内容

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別府:この考え方は、現在でも通用する先進的なものであると自負しています。とりわけ介護食や治療食を必要とされる患者さんやお年寄りにとっては、災害時でも適切な成分や形態を備えた食事を摂れるかどうかが生命に関わりかねない重要な問題です。是非参考にして取り組んでいただきたいと思います。
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