「病院給食施設の設計マニュアル」ダイジェスト
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第2回
災害から学ぶ食糧備蓄のあるべき姿
(3)東日本大震災から学ぶ食糧備蓄のあり方
1)東日本大震災を経験して新たに分かった課題として、どんなことが挙げられますか?
別府:東日本大震災では、47万人の被災者が出ました。そこで、国は日本中の食品メーカーに常温食品の増産を要請し、集められるだけ集めて被災地に送るというとても画期的な取り組みが行われました。しかし、担当した農林水産省の方にお話を伺うと、日本中の缶詰、レトルト食品、アルファ米などの常温食品の生産能力は、1日当たり100万食しかないことが分かったとおっしゃっていました。これは、食品メーカーができるだけロスの出ない効率的な生産体制を築いているため、急に増産できる量が限られてしまっていることによるもので、資材や各種材料の在庫にも同様のことが当てはまります。
もちろん、コンビニの弁当工場やレストランの厨房には、チルドや冷凍で保存されている食品がありますが、残念ながらこれらは被災現場では保存・解凍機能などの制約上、使うことができません。幸い東日本大震災では、47万人の被災者に対し、平均すると1日2食分を用意でき、数の上では何とか間に合いました。熊本地震は被災者が18万4,000人でしたので、こちらも間に合わせることができました。しかしながら問題は、今後起こる確率が高いと言われている首都直下型地震における被災者が700万人に上ると想定されることです。
2)首都直下型地震を想定する場合、特にどのような備えが必要となるのでしょうか?
別府:東日本大震災の際には、北関東に工場をもつ食品メーカーが稼働できたため増産ができましたが、首都直下型地震の場合は、それらの工場も同時に被災する可能性があります。つまり、必要な量は14倍に拡大するのに対して、食料供給力は下がるため、リスクが大幅に増大します。また、輸送面も首都高速が通行できなくなり、一般道も災害時には緊急車両しか通行できなくなることが想定されます。したがって、ライフラインの代替確保とともに、食品は消費期限が短くても構わないので、災害が起こった時に食べられるものを普段から身近な場所ごとにランニングストック的に増やして備えておくしか決定的な対策が思いつきません。当然、赤ちゃんや高齢者が食べられるものを用意しておくことも忘れてはならない大切な課題です。
3)学校給食施設や病院、介護・福祉施設で備えておくべき食品や機器、器具等を教えてください。

■熊本地震におけるライフラインの復旧推移

原因食品の内訳
出典:内閣府 防災情報ページ
別府:建物に耐震性があることが前提となりますが、地震等の災害が起こってライフラインが途絶えても、回転釜など一部機器は非常用電源などで稼働できるようにしておけば、調理が可能になります。備蓄用の貯水槽の水は配管がずれて使えなくなった事例も東日本大震災では報告されていますので、1人1日2リットルで3日分を目安にペットボトルを備蓄し、普段から使いながら買い増す等2重・3重の備えをしておくことが大切です。
また、食材の温度が上がるまでは、冷蔵庫・冷凍庫に入っている食材を使うこともできます。そのためには、温度管理ができるよう温度計などを入れておく必要があるでしょう。当然ながら熱源や水、材料などすべてが限定的になるため、釜や食器を洗うことも困難になります。その対策として、使い捨て食器類やラップなどを買い置きしておくととても有効です。特にラップは調理に使ったり、食器にかぶせて使ったりと、いくつあっても困ることはなかったと被災者からも聞きました。したがって、備蓄食品も容器がそのまま食器として使えるものを備えておくことも有効でしょう。
また、また、東日本大震災の被災地の病院には、怪我をした避難者が押し寄せたため断ることもできず、備蓄していた食糧を分けて食べたという事例も報告されています。そのため、入院患者数から算出した備蓄量だけでなく、職員はもちろん近隣住民が来ることも想定して余裕をもった備えをすることが大切です。
さらに、病院や介護・福祉施設に想定される問題として、配膳があげられます。特に建物が高層構造の病院では、エレベーターが動かないと配膳することがほぼ不可能になってしまいます。実際に被災した病院では、職員がバケツリレーのように階段で列を作って手渡しで上の階まで運んだ事例も報告されています。この対策として、各病棟別にストックスペースを確保して、カセットコンロなどの代替設備と合わせて食糧や備品を備えておく仕組みを構築することも必要でしょう。現在の建物の多くが、地震や災害がないことを前提につくられてしまっているように思います。今後は、どのような危険があるのか、自施設の個別条件を分析・把握したうえで対策を講じなければなりません。
地震多発時代に入った今、ただ、備蓄食品を揃えたというだけでなく、リスクのある災害の種類に対応した建物の作り方や、普段から災害に遭遇することを想定した生活スタイルに、模索を重ねながら変えていく必要があるのではないでしょうか。
(4)今後取り組むべきこと
1)先日も熊本地震が発生しましたが、最後に今後の地震に備えて、私たちが取り組むべき優先的事項を教えていただけませんでしょうか。
原因食品の内訳

■主な地震発生確率(30年以内)

原因食品の内訳
出典:文部科学省地震調査研究推進本部資料他を参考に作成
別府:熊本地震は断層型の地震で地域防災計画で検討されていたにも関わらず、発生確率が1%以下と低かったため、地元の方々の意識の中では、ほとんど危険視されていませんでした。今後、30年以内に高い確率で発生する可能性があるとされる南海トラフ地震や首都直下型地震など、私たち全員がしっかりと想定し、対策を考えておかなければなりません。日ごろの快適な生活に慣れてしまって、地震や災害に遭遇することなどイメージしたくないという意識を変えて、国民一人ひとりが家庭や職場等のあらゆる場所で対策を考え、出来ることからひとつずつ実行しておくべきです。このような災害に対する意識の転換をどうやって促し広めていくかが、大きな課題となっています。毎年防災の日には、マスコミも大々的に報道しますが、過ぎてしまうとぱったりと報道されなくなってしまいます。国民一人ひとりの意識を変えていくためには、できるだけ継続的に訴えかける機会や仕組みを作ってほしいと思います。また、生活の基盤となるライフラインを担うエネルギー供給会社には、災害と密接な関係にあることを踏まえて、是非行政と共に、災害対策について積極的に考え取り組む場を検討・設置いただければありがたいと考えています。まずは、非常用の備蓄食品などを実際に災害時と同じ状況の中で食べてみたり、水と燃料と食糧の量的バランスが取れているか確認したりすることで、具体的に何が足りないか、どうするべきなのかが少しずつ認識できてくるのではないでしょうか。それによってわかったことを関係先にフィードバックするなど、官民一体で協力してレベルアップしていくことがとても大切だと考えています。
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