コラム
医療・福祉施設における災害時の食事提供と備蓄食品
松月弘恵
東日本大震災が広範囲の地域に甚大な被害を与えた中、給食施設は食事を出し続けた。このシリーズでは今後の災害対策の一助となることを願い、被災地で実施したインタビュー調査から得られた知見を掲載する。

災害時対策の見直したい10のポイント①

 これまでの2回の連載では、筆者らの調査結果から東日本大震災が中小規模の医療・介護系施設に与えた影響と、計画生産を行い、電気を熱源としていた院外調理利用施設では1食も欠かすことなく食事を提供した事例を紹介した。今回は調査対象の16施設のインタビューから得た災害時マニュアルで見直したい10のポイントを2回に分けて紹介する。今回は前半の5つのポイントを示す。

(1)組織

 対象施設では災害時訓練を実施していたため、被災時にすみやかに対応できた施設もあれば、全てが想定外であり混乱が続いた施設もあった。その明暗を分けたものは平時からの災害時対応であった。震災後すぐに施設長を本部長として災害対策本部を立ち上げ、事務職員が食材調達専従として対応した施設もあった。また、年4回災害時訓練を実施し、夜間や利用者も参加しての訓練を行っていた施設では、避難先情報が錯綜する中、利用者を連れて避難所に逃れ、3日間の災害時備蓄食材を使用して急場を凌いだ。これらの好事例の特徴は、組織としての災害時への危機管理体制と実践的訓練である。表1に災害時マニュアルで見直したい「組織」に関する項目を示した。重要なことは災害時対策マニュアルを作成するだけではなく、マニュアルを使って訓練を行い、問題点を改善してマニュアルを訂正するPDCAサイクルを繰り返すことである。

(2)施設・設備

 表2に災害時マニュアルで見直したい「施設・設備」に関する項目を示した。災害において施設の被災程度を予測することも重要である。特に今後想定されている直下型地震では施設の被害が大きいのが特徴である。震災の大きさにもよるが、築年数や耐震工事の有無も参考になる。停電になると地下厨房では採光がとれず作業はできない。また、換気ができないと加熱調理は不可能となる。エレベーターが使用できなければ配膳が困難となる。これまで、災害時の食事提供は非常用備蓄食材、熱源と水があれば調理ができると想定していた。しかし、災害時には建物、厨房や厨房機器が使えなくなることも想定しなければならない。さらに、厨房が使用できなくなることを想定して、採光がとれ換気が可能な代替厨房の設置を検討しておくと良いだろう。

(3)水

 表3に災害時マニュアルで見直したい「水」に関する項目を示した。調査施設では断水の期間が約1ヶ月間と長く続いた。中小規模の医療施設や介護施設には給水車が来ることはなく、住民と同様に給水所に並ばなければならなかった。よって給食施設には受水槽の設置は必要である。また、一般的には災害時の水の備蓄は、飲用水の備蓄量が示されているのみである。しかし実際には、生活用水や調理水も必要である。飲用水の他に調理水90L(18Lのポリタンクを5個分)を備蓄していた施設もあった。食事提供は調理だけではなく、洗浄でも水は必要となる。たとえ使い捨て食器を使用しても、機器や器具の洗浄には水が必要である。

(4)熱源

 表4に災害時マニュアルで見直したい「熱源」に関する項目を示した。阪神淡路大震災・東日本大震災ともに停電は3~5日であり、電気の復旧はガスより早かった。調理用熱源に都市ガスやプロパンガスを使用している場合は、プロパンガスを優先的に入手する方法や、プロパンガス対応のコンロ、プロパンガスを都市ガスに変換するガス変換機が必要となる。調査施設の中には、災害時にはボーイスカウトからプロパンガスと関連機器を借りる契約をしていた施設や、災害支援としてガス変換機が届けられた施設もあった。
 医療施設では自家発電を有している施設も多いが、自家発電と厨房のどの機器が繋がっているが確認しておくと良い。調査施設では自家発電機と加熱機器との接続はなく、食器消毒保管庫のみと繋がっていた施設があった。栄養管理用のPCと自家発電を繋げておくと食事管理に役立つ。また、住宅地に位置するグループホームでは、自家発電使用時の騒音が大きく、近隣世帯への配慮から使用できない施設もあった。事前に自家発電を使用して確認しておくと良い。

(5)通信・情報

 表5に災害時マニュアルで見直したい「通信・情報」に関する項目を示した。調査のインタビューでは「災害後は情報を入手できず、何が起きているか分からず、不安であった。」 とする意見が多く聞かれた。そのことからラジオ等で情報入手も必要となる。電話やメールも使用できず、食材業者との通信手段が断たれた時、直接出向くことも有効な1手段であった。それにより相手の被災状況も確認できた。震災後、SNSの普及も著しいが、新しい通信機器に関心を持ち、使用できるようにしておくことも災害対策となるだろう。
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