コラム
医療・福祉施設における災害時の食事提供と備蓄食品
松月弘恵
東日本大震災が広範囲の地域に甚大な被害を与えた中、給食施設は食事を出し続けた。このシリーズでは今後の災害対策の一助となることを願い、被災地で実施したインタビュー調査から得られた知見を掲載する。

災害時対策の見直したい10のポイント②

 本連載ではこれまでに、 第1回第2回では 「東日本大震災で被災した医療・介護系給食施設の実態」、第3回第4回では「災害時対策の見直したい10のポイント」を紹介してきた。今回はその総括としてこれからの災害に向けての体制づくりと食事提供システムについて考えてみたい。

(1)災害対策のヒント

  表1に「災害対策のヒント (セルフチェックリストを用いた分類)」を示した。これは宮城県塩釜保健所が作成した「平常時の給食施設セルフチェック表(案)」に基づき分類したものに、筆者が被災地域の中・小規模の医療・介護施設を対象に行ったインタビュー調査の結果を追記したものである。

 全体は「危機管理体制の整備 (施設内)」「備蓄等災害時食糧の確保」「外部との連絡体制の明確化」から構成されている。対策のアドバイスはそれぞれの項目に対して、各施設から得た災害対策のヒントである。例えば「災害時対応マニュアルの整備」のライフラインの電気に関する項には、4項目が挙げられている。「電気ポットでお湯をわかし, カセットコンロと併用すると加熱時間を短縮できる」「自家発電を実際に動かして確認しておくと良い」「 ヘッドライトやランタンを準備して, 作業者の両手が使用できるようにする」「電池等を十分備蓄しておく」などは、被災後に食事を提供し続けた経験なくしては想像できない貴重なアドバイスである。

 さらに、これらの他にも「ハザードマップ等を活用した事前の給食厨房施設・設備の確認」、「職員用備蓄の整備」、「被災後の食料・ガソリン調達」、「給食業務委託における災害時対策」の必要性が複数の施設から指摘された。これらを総括すると、事例から学ぶ災害時対策の原則として、「災害時には周囲の状況に応じて設定を見直し、臨機応変に対応する」「過去の事例を現在のそれぞれの立場に置き換えて検討する」「災害時給食に関して訓練を通して知恵をもつ」ことが重要である。

(2)給食生産システムと災害

 給食生産システムと災害対策について考えてみたい。従来の給食生産システムは、施設でその日に生産した食事を、調理後に食べるクックサーブ方式のみであった。しかし、近年では食品衛生や生産性の観点から、調理後の食事を一旦急速冷却もしくは冷凍したものを、同一施設もしくは他施設に搬入した後に再加熱して喫食する新調理システムの導入が進んでいる。これら院外調理では、生産拠点をセントラルキッチン、受け入れ施設をサテライトキッチンと呼ぶ。センター方式の学校給食も生産拠点と受け入れ施設は異なる点では、院外調理と類似している。 しかし、院外調理では一旦加熱調理したものを急速冷却もしくは冷凍した後、厳しい温度基準の下で管理して再加熱する点がセンター方式の学校給食とは異なる。このように院外調理は食品衛生上優れた給食生産システムであるともに、温度管理により計画生産や広域に配送できる利点もある。

 今回の東日本大震災でも(有)みやぎ保健企画セントラルキッチンから食事提供を受けていた施設は、1食も欠かすことなく食事を提供し続けることができた。停電時には再加熱が困難であったが、電気の復旧は概ね3~5日であったため、電化厨房の施設では食事提供の復旧が早かった。これらの背景には、(有)みやぎ保健企画セントラルキッチンでは災害時の代行保証を結んでいたため、広域の支援を受けやすかったこと、緊急時車両に認められたため物流や配送が有利であったことや、計画生産を行っていたことがある。被災後の混乱が続く中、食事を出し続けることができたことの意義は大きい。

(3)これからの災害対策にむけて

 医療・福祉施設における災害時の食事提供と備蓄食品に関して重要なことは、「何をどれだけ備蓄するか」だけではなく、それらを用いて食事提供を伴うPDCAの訓練を繰り返し、災害対応力を高めることである。
 また、今後南海トラフ巨大地震が予想されている30年間には、我国がこれまで想定しなかった高齢化と生産労働人口が減少する社会が到来する。その場合には、これまでの人海戦術による災害復旧には限界があるかもしれない。そうであるならば、食事提供においても災害の被害の少ないシステムの採用や更なる構築が重要であると考える。
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